親や親しい知人の亡くなる様子を見ていると、自分はあんなにもたくさんのチューブにつながれたまま、無理やり生きるような治療をしたくないと考えている人は、決して少なくありません。
しかし、自分が死の間際になったときには、親しい家族や医師に直接自分の意思を伝えられないほど、病状が悪化している可能性が高いです。
それでは、遺言書で延命治療をしてほしくないという意思を記すことで、医師の延命治療を拒否することはできるのでしょうか。
遺言書は死後の遺産相続などのための書類
遺言書に自分の死の間際に延命治療をしないでほしいという旨を記載する方もいますが、残念ながら遺言書では延命治療に関する事項を伝えられません。
実は、遺言書で決められることは民法の中で明確に限定されています。
具体的には、遺産相続に関する事項(相続分の指定・遺産分割協議の方法など)や、子どもの認知・財産の信託といった事項です。
また、遺言執行のための執行者の指定といった事項も遺言書の中で明確にしておくことが可能です。
しかし、民法の規定の中では、遺言書で延命治療に関する事項を定められるといった記載がありません。
遺言書は作成した方の死後に開封されるものなので、どちらにしても遺言書で延命治療のあり方について指定することは困難です。
延命治療についてはエンディングノートを
延命治療についての考えを家族や医療従事者に知ってもらいたい場合は、エンディングノートの活用が効果的です。
エンディングノートは遺言書とは異なり、生前に関することも内容に含められます。
延命治療についてだけでなく、自分が万が一認知症になってしまったときの後見や、介護が必要になったときのことについても記載する方が多いです。
最近は終活の一環としてエンディングノートの執筆に取り組む方が増えてきています。
エンディングノートは法律で書式などが決められているものではなく、法律知識のない方でも気軽に書けるのも大きなメリットといえるでしょう。
尊厳死宣言公正証書の作成方法
エンディングノートよりも延命治療に関する事項に関して特に強く希望したい場合は、尊厳死宣言公正証書を作成するという手があります。
公証役場で公証人の方と内容の打ち合わせを行い、手数料を支払って作成してもらうだけなので、手続きも比較的簡単です。
手数料も弁護士費用などと比較すると、大変リーズナブルです。
しかし、尊厳死宣言公正証書を作成しても、必ずしも医療現場でその意思が尊重されるとは限りません。
なぜなら尊厳死宣言公正証書に医師が従う義務はなく、訴訟のリスクなどを考えると医師が延命治療を続ける可能性のほうが高いからです。
本人が延命治療拒否を望んでいても、家族がどうしても死なせたくないと願い、延命治療を続けてもらうように懇願するケースも少なくありません。
延命治療については書類で伝えるのではなく、健康なうちに家族や親族と話し合っておくことをおすすめします。