亡くなった方が家族の介護を受けていた場合、介護していた人は「貢献」に応じた相続分を受け取れるでしょうか。今回は相続と介護の関係、そして2019年から導入された「特別寄与制度」について解説します。
遺産相続と介護の関係
一般に介護には時間も労力もかかります。このため「被相続人の介護をしていた人は、他の相続人よりも多くの財産を(お礼として)受け取れるはず」と考える人が多いのも当然といえるでしょう。
しかし遺産相続と介護は別問題です。基本的には、介護をしたからといって相続が有利になるわけではありません。
相続人なら寄与分が認められる可能性あり
とはいえ民法には「寄与分」という制度があります。民法第904条の2にはこのように書かれています。
共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。 |
介護をしていたのが相続人なら、被相続人の財産の一部を「寄与分」として取り分けておき、介護で貢献した人の相続分にそれを上乗せすることができます。
ただし寄与分が認められるためには、
①相続人であること(共同相続人のひとりであること)
②事業の手伝いや財産の提供、療養看護などをしていたこと
③被相続人の財産が維持もしくは増加したこと
④特別の寄与をしたこと
という4つの要件を満たさなければなりません。詳しい内容については『親の面倒を見た人は遺産相続で優遇される?寄与分の要件について解説』もお読みください。
相続人以外の親族は特別寄与料を請求できることも
寄与分の対象となるのは、あくまで「共同相続人」です。相続人にならない親族がこの制度を利用することはできません。しかし現実には、嫁(息子の妻)や婿(娘の夫)、あるいは「いとこ」といった、法定相続人ではない親族が介護をしているケースも少なくありません。
この問題を解決するため、2019年の民法改正で新たに導入されたのが「特別寄与料」制度です。この制度の内容については後ほど説明します。
介護をしていた人に多く相続させるには
寄与分や特別寄与料の制度は、あくまで相続発生後に(介護をしていた人が)主張するものです。これに対し、介護を受けている人が「お礼」として(介護をしてくれた人に)財産を多く渡したい場合は、主に以下の方法が利用できます。
遺言書を書く
最も一般的なのが「遺言書」による指定です。介護をしてくれた家族・親族の名前と、その人に渡したい財産の内容を具体的に記載すれば、その内容で相続手続が行われます。
利用する遺言書は自筆証書遺言でも公正証書遺言(もしくは秘密証書遺言)でも構いません。それぞれに効果の違いはないためです。ただし自筆証書遺言を自宅で保管している場合は「改ざん」のリスクがあるため、できるだけ公正証書遺言を利用するか、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用するのが無難でしょう。
なお遺言の内容は「全財産を●●に相続させる」といった極端なものでも有効ですが、共同相続人がいる場合は遺留分侵害額請求を起こされる可能性もあります。残された家族や親族同士を対立させないためにも、バランスの取れた遺言内容にしておくべきです。
関連記事:『公正証書遺言は相続人に通知される?遺言者が死亡したらやるべきことについて解説』
関連記事:『行政書士の遺言書作成費用はいくら?費用の相場や他の専門家との違いについて』
生前贈与をする
生前に財産を与える「生前贈与」も有効な手段です。ただし生前贈与の金額が年間110万円を超える場合は贈与税の対象となります(贈与税は相続税よりも高額です)。また相続が発生する(被相続人が死亡する)1年前に行われた生前贈与は遺留分侵害額請求の対象となる点にも注意してください。
関連記事:『生前贈与で贈与税申告が必要なケースとは?申告の方法と必要書類についても解説』
生命保険の受取人にする
介護してくれた相手を生命保険の受取人にすることもできます。生命保険金は相続財産ではないため、他の相続人の遺留分を侵害するおそれもありません。比較的、相続トラブルになりにくい手段といえるでしょう。
関連記事:『死亡保険金は遺産相続でどう扱われる?相続税がかかる場合の計算方法も解説』
特別寄与料制度について
ここからは2019年に導入された「特別寄与料」制度について、あらためて説明していきます。まず改正された民法の条文(第1050条第1項)には次のように書かれています。
被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第891条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。 |
特別寄与料と寄与分の違いは、対象者が相続人に限定されないことです。寄与分は配偶者、子、直系尊属、兄弟姉妹の範囲内が対象でしたが、特別寄与料では嫁や婿、いとこなど、法定相続人以外の親族も対象となります。
これらの人たちは相続人ではないため、相続分の上乗せではなく「金銭請求」という形で寄与分(特別寄与料)を主張できます。
利用できる人
法定相続人以外の親族が対象といっても、一定の制限はあります。第1050条第1項では「被相続人の親族」と書かれていますが、民法上の親族とは「6親等内の血族」「配偶者」「3親等内の姻族」までです(第725条)。
このうち「配偶者」は法定相続人に含まれるため、寄与分との違いは「6親等内の血族」と「3親等内の姻族」の部分になります。ちなみに嫁や婿は「1親等の姻族」、いとこは「4親等の血族」です。
特別寄与料を受け取るには
特別寄与料を受け取りたい場合、まずは相続人に対して請求を行います(相続人以外が遺産分割協議に加わることはできないため、遺産手続の終了後に請求する形です)。
もし相続人が請求に応じない場合、家庭裁判所に申し立てることもできます。ただしこの場合、請求期限は「特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月」です。もっとも特別寄与料の請求権は「相続開始の時から1年」で消滅するため、申し立てはできるだけ速やかに行わなくてはなりません。
特別寄与料の計算方法
特別寄与料にはいくつかのパターンがありますが、家庭裁判所が認定する特別寄与料は以下の「計算方法」によって算出されます。
- 療養看護型
療養看護型とは、被相続人の介護や看護をしていた親族に認められる特別寄与料です。この場合の計算方法は、
介護日数 × 介護報酬相当額(1日5000円~8000円程度)× 裁量割合(0.5〜0.9) |
です。ただし「介護日数」には入院期間や施設入所期間、介護サービスを受けた期間は原則として含まれません。また親族にはもともと扶養義務があり、大抵の場合は介護の専門家ではないことから「裁量割合」として0.5〜0.9(おおむね0.7前後)を乗じます。
- 家業従事型
家業従事型とは、被相続人が行っていた事業に従事する親族に認められる特別寄与料です。この場合の計算方法は、
特別寄与者が通常得られたであろう給与額 ×(1 − 生活費控除割合)× 寄与期間 |
です。「特別寄与者が通常得られたであろう給与額」は、統計資料などに基づいて算出されます。
- 当事者間で協議して決める場合
親族と相続人との間で特別寄与料を取り決める場合、上記の計算式を利用しなくても構いません。あくまで当事者同士が納得できる方法で、妥当な金額を決めることになります。なお相続と特別寄与料は別物なので、特別寄与料の金額についてあらかじめ遺産分割協議で決めておくことはできません。
まとめ
被相続人を献身的に介護してきた人は、必ずしも相続で有利になれるわけではありません。とはいえ被相続人が感謝の気持ちとして、遺言書や生前贈与などで財産を多く与えることは可能ですし、介護をした相続人や親族が、寄与分や特別寄与料を主張することもできます。そのような計画がある場合は、まずは他の相続人ともよく話し合って、トラブルのない相続を心がけていきましょう。