遺産相続は何から始める?相続手続の注意点も解説

遺産相続の手続きにはさまざまな種類があるため、どれから手をつけて良いかわからないという方も大勢いることでしょう。そこで今回は遺産相続手続の「期限」に注目して、主な手続きの種類と流れについて説明していきます。

 

遺産相続の主な流れ

遺産相続手続は、相続の発生(被相続人の死亡)から始まります。その内容にはさまざまな種類があり、多くの手続きには数日単位・数か月単位・数年単位の期限が設定されていて、期限内に完了できないとペナルティが発生するものも少なくありません。

ここではおおまかな期限ごとに、遺産相続手続の種類と内容を紹介します。

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〜15日以内

【死亡届の提出】

相続発生後の最初の手続きは、被相続人の死亡から7日以内に行う「死亡届」の提出です。届出先は死亡した地域か本籍地、届出人の住所がある市区町村役場です。なお死亡届を届け出るのは相続人をはじめ、死亡した方の同居人や家主、後見人などの関係者です。死亡届に付属する死亡診断書は医師が記入します。

【健康保険の資格喪失】

国民健康保険や会社の健康保険に加入していた場合は「健康保険の資格喪失の届出」が必要です。国民健康保険(および後期高齢者医療制度)は死亡から14日以内に市区町村役場へ、会社の健康保険は5日以内に勤務先に問い合わせたうえで届出を行います。

【厚生年金・国民年金の受給停止】

被保険者が年金受給者だった場合、「年金受給の停止」を行う必要もあります。国民年金の場合は14日以内、厚生年金は10日以内で、届出先は住民票の所在地を管轄する社会保険事務所です。もし手続を忘れたまま年金を受給し続けた場合、(たとえ故意ではなくても)後から返還を求められます。

【介護保険資格の喪失届】

被相続人が介護保険の被保険者なら、「介護保険資格の喪失届」を提出します。期限は死亡から14日以内で、届出先は被保険者の住所がある市区町村役場です。この際、護保険被保険者証も同時に返還します。

【世帯主変更の届出】

被相続人が世帯主だった場合、原則として「世帯主変更届」を提出します。期限は世帯主の死亡から14日以内で、届出先は世帯主の住所がある市区町村役場です。もし特別な理由がないのに届出を怠った場合は、5万円以下の罰金を科される可能性もあります。

【自動車の名義変更】

被相続者が自動車を所有していた場合、亡くなってから15日以内に名義変更をしなければなりません。届出先は車検証の住所を管轄する運輸局か自動車検査登録事務所です。

 

できる限り早く

【銀行等への届出】

被相続人が預金口座などを持っているなら、金融機関への届出も必要です(死亡届を出しても自動的に連絡が行くわけではありません)。届出を受けた銀行は名義人の死亡を確認した時点で口座を凍結するため、もし葬儀費用などの必要がある場合は、届出前に必要なぶんだけお金を下ろしておいた方が良いでしょう。

【公共料金等の引き落とし口座の変更等】

銀行口座が凍結されると、その口座から公共料金などの支払い(引き落とし)ができなくなります。電気やガス、水道などのライフラインを止めてしまうことがないよう、できるだけ早いタイミングで引き落とし口座の変更などが必要です。

【相続人の確定】

「相続人の確定」は、遺産相続手続の基礎となる非常に重要な手続きです。被相続人の戸籍謄本を出生時から死亡時のものまですべて取り寄せて、法定相続人の有無を確認します。なお戸籍謄本は一回の手続きで揃えられるとは限りません。たとえば被相続人が本籍地を異動している場合や代襲相続が発生している場合などは、すべての戸籍を取り寄せるのに時間がかかる場合もあります。

【相続財産の調査】

「相続財産の調査」も重要です。現金はもちろん、預金や有価証券、不動産などの「プラスの財産」に加え、借金などの「マイナスの財産」も相続対象となります。これらの調査には時間も根気も必要になりますが、後々トラブルにならないためにも確実に調べなくてはなりません。

【遺言書の調査・検認】

もし被相続人が「遺言書」を残していた場合、その遺言書を見つけて検認(他の相続人に遺言書の存在を知らせるとともに、その内容を明らかにする手続き)します。遺言書には自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言などがあり、それぞれ保管先や検認の方法などが異なるため注意が必要です。

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【遺産分割協議】

遺言書が存在しない場合は、すべての相続人による「遺産分割協議」が必要です。どの財産を誰に相続させるかなどを決め、皆が納得したうえで「遺産分割協議書」を作成します。この遺産分割協議書は相続税申告や不動産の相続登記に必要な重要書類なので、(遺言書がない限り)速やかに作成するようにしてください。

【預貯金などの解約・名義変更】

相続人同士の遺産分配が決まったところで、凍結されていた口座の払い戻しや被相続人名義の有価証券の名義変更などを行います。手続きの手順は金融機関などによって異なるため、できるだけ早めに問い合わせておくと良いでしょう。

 

〜3か月以内

【相続放棄など】

マイナスの財産が多かった場合など、遺産を相続したくない場合は家庭裁判所で「相続放棄」や「限定承認」の手続を行います。期限は相続開始を知った時から3か月以内です。なお3か月以内に相続財産の調査が終わらない場合、3か月以内に家庭裁判所に申し出て、期限をさらに3か月延長できます。

 

〜4か月以内

【準確定申告】

被相続人が個人事業主だったり、給与所得を2か所以上から受け取っていた場合、不動産運用で家賃収入を得ていた場合などは「準確定申告」が必要です。期限は相続開始を知った日から4か月以内です。準確定申告の必要があるかどうかは判断が難しいケースもあるので、税理士に相談したうえで手続をするのがスムーズでしょう。

 

〜10か月以内

【相続税申告】

相続した遺産が一定額を超える場合は「相続税申告」が必要です。期限は相続開始を知った日の翌日から10か月以内で、期限内に申告をしないと「無申告加算税」が上乗せされます。申告先は税務署です。ちなみに相続財産が「3,000万円+600万円×相続人の数」以下であれば基礎控除額の範囲内になるため、相続税は発生しません(申告は不要です)。

 

〜1年以内

【遺留分侵害額請求】

遺言書の指定などで法定相続人の遺留分が侵害された場合、その法定相続人は遺留分侵害を知った日から1年以内、もしくは相続の発生から10年以内に「遺留分侵害請求」を行うことができます。請求は他の相続人に直接行うのが原則ですが、話し合いで解決しない場合は家庭裁判所に訴訟を提起することもできます。なおすでに遺産分割協議書で同意していた場合、遺留分侵害請求はできません。

 

〜2年以内

【葬祭費、埋葬料の請求】

健康保険や社会保険の加入者が亡くなった場合、埋葬(葬祭)を行った人に「葬祭費や埋葬料」として5万円が支給されます。後期高齢者医療制度に加入している人が亡くなった場合の葬祭費は7万円です。申請の期限は「葬祭を行った日の翌日から2年以内」で、市区町村の保険年金課や全国健康保険協会で手続を行います。

 

〜3年以内

【相続登記】

不動産を相続した場合は「相続登記」が必要です。厳密には現時点(2021年)で登記の義務は発生していませんが、民法と不動産登記法の改正によって「2023年4月28日までに」、不動産の取得を知った日から3年以内の登記が義務付けられます。この場合、登記義務を怠ると10万円以下の過料というペナルティが発生するため十分な注意が必要です。

【生命保険金の請求】

被相続人が生命保険に加入している場合、(保険会社にもよりますが)3年以内に保険会社に連絡して「生命保険金を請求」できます。具体的な請求期限や請求に必要な書類、手続きについては、それぞれの保険会社に確認してください。

 

3年以上

【相続税の還付請求】

相続税を納めすぎてしまった場合、被相続人が亡くなってから5年10か月以内に「相続税還付の手続き」を行えます。特に評価額の算定が難しい不動産を相続した場合、この手続が必要となるケースが少なくありません。

【遺族年金の請求】

被相続人が国民年金や構成年金の被保険者だった場合「遺族年金の請求」ができます。期限は死亡日から5年以内で、国民年金の場合は被保険者の住所があった市区町村役場や年金事務所、厚生年金は所属していた会社経由で申請を行います。

 

専門家を選ぶ際の注意点

専門家を選ぶ際の注意点は「相続の内容によって相談先(依頼先)を選ぶ」ことです。遺産相続手続の専門家にはさまざまな種類があります。主な専門家だけでも弁護士・行政書士・司法書士・税理士がいて、それぞれに「できること、できないこと」や「費用」が違います。

たとえば相続人同士でトラブルが発生している場合やトラブルになりそうな場合は「弁護士」に依頼する必要がありますし、相続財産に土地や建物が含まれる場合は「司法書士」、相続財産が基礎控除額(3,000万円+600万円×相続人の数)になりそうなら「税理士」に頼むのがベターです。また遺産相続に伴って会社や事業関係の手続きが必要なら「行政書士」に依頼すると良いでしょう。

専門家に依頼するための費用もひとつの判断材料です。とにかく費用を安くしたいという場合は、個別の手続き(たとえば「遺産分割協議書の作成」)だけ請け負ってくれる行政書士や司法書士に依頼することができます。遺産相続手続をまるごと依頼したい場合で費用をできるだけ抑えたいなら、複数の資格を持つ士業事務所や士業同士のネットワークを持つ士業に依頼するのがお勧めです。

関連記事:『遺産相続は誰に頼むのがベター?各専門家の業務範囲や費用・注意点についても解説

 

まとめ

遺産相続にはこまごまとした手続きが付き物で、しかもそのほとんどに手続きの期限(申請期限)が設定されています。うっかり忘れるとペナルティを受けてしまうこともあるため十分注意してください。これから遺産相続手続を行う方は、行政書士や税理士などの専門家に相談しながらしっかりと手続を進めるようにしましょう。

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