死亡保険金は遺産相続でどう扱われる?相続税がかかる場合の計算方法も解説

相続の発生後、相続人に「亡くなった方の保険金(死亡保険金)」が支払われることがあります。しかし特定の相続人が死亡保険金を受け取った場合、その保険金は遺産分割協議や相続税の計算でどのように扱われるのでしょうか?今回は遺産相続と死亡保険金の関係について、わかりやすく説明していきます。

 

死亡保険金は遺産相続の一部?

被相続人の死亡によって支払われる保険金は、遺産相続の一部に含まれるでしょうか?もう少し具体的にいうと、相続人の一人に支払われた死亡保険金は遺産分割協議の対象になるのでしょうか?

 

受取人の固有財産

通常、生命保険の契約時には保険金の受取人を指定します。この際に特定の相続人を受取人に指定していたなら、支払われた保険金は「受け取った相続人の固有財産」です。つまり相続財産として遺産分割の対象となったり、遺留分の対象になることはありません。つまり「死亡保険金と(遺産分割対象となる)相続財産とは別物」ということです。

このため受取人に指定された相続人は、死亡保険金をすべて受け取ったうえで、さらに被相続人が残した財産を法定相続分に応じて相続することができます。また相続財産ではないため、仮に受取人が相続放棄をした場合でも、保険金を受け取る権利は失われません。

なお少し変則的ですが、次のようなケースも考えられます。

①被保険者自身が保険金の受取人に指定されている場合
②指定された受取人がすでに亡くなっている場合
③受取人が未指定の場合

①の場合、被保険者の死亡によって発生する死亡保険金は(亡くなった)被保険者の財産になると考えられます。つまり遺産分割協議や遺留分の対象になるというわけです。ただしこの考え方には異論もあり、はっきりした答えは出ていません。

②の場合、もし新たな受取人が指定されないまま被保険者が死亡してしまったなら「保険法第46条」が適用されます。

保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる。


ただしあくまで「保険金として」受け取る(相続遺産として受け取るわけではない)ため、受取人が複数いる場合は法定相続分ではなく、受取人の数で均等に分割します。

③の場合、契約時に受取人を指定しなくても約款に受取人の指定があれば、保険金はその受取人の固有財産です。ただし契約時に受取人の指定がなく、約款にも受取人の指定がない場合、②と同様に受取人は相続人全員となり、保険金はそれぞれに均等配分されます。

 

相続税の対象になる

死亡保険金は原則として民法上の相続財産ではありませんが、相続税法では相続財産として扱われます(相続税の課税対象となる)。これは死亡保険金が相続税法第3条第1項第1号の規定により「相続又は遺贈により取得したもの」と見なされるためです。このような財産は「みなし相続財産」と呼ばれます。

相続税法第3条第1項第1号(カッコ部分は省略)

次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は遺贈により取得したものとみなす。この場合において、その者が相続人であるときは当該財産を相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは当該財産を遺贈により取得したものとみなす。
1 被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約第2条第3項に規定する生命保険会社と締結した保険契約の保険金又は損害保険契約の保険金を取得した場合においては、当該保険金受取人について、当該保険金のうち被相続人が負担した保険料の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分

 


死亡保険金にかかる相続税の計算方法

死亡保険金にかかる相続税には非課税限度額が設定されています。

 

非課税限度額の計算式

死亡保険金の非課税限度額は法定相続人の数によって変わります。具体的な計算式は次の通りです。

『500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額』

具体的には、相続人が1人だけなら500万円(500万円×1名)、2人なら1,000万円(500万円×2名)、3名なら1,500万円(500万円×3名)という具合です。

 

相続放棄等があった場合

ただし相続人の中に相続放棄をした人や相続権を失った人がいる場合、その人は非課税限度額計算の法定相続人の数に含まれません。もし法定相続人が2人いても、片方が相続放棄した場合の非課税限度額は500万円(500万円×1名)です。

また法定相続人の中に養子がいる場合、法定相続人に含める養子の数は、実子がいるときは1人、実子がいないときは2人までとされています。

 

相続税計算の具体例

死亡保険金にかかる相続税は次のように計算します(保険金の受取人を仮にAとします)。

【Aが受け取った保険金】−【非課税限度額】×【すべての相続人が受け取った保険金の合計 ÷ Aが受け取った保険金】


たとえば以下のようなケースを想定してみましょう。

  • Aが受け取った保険金:2,000万円
  • 相続人の数:2人
  • すべての相続人が受け取った保険金の合計:2,000万円(Aの保険金のみ)

この場合、まず非課税限度額は1,000万円(500万円×2名)になります。これを上の式に当てはめると、相続税の課税対象になる金額は次の通りです。

【2,000万円】−【1,000万円】×【2,000万円 ÷ 2,000万円】= 1,000万円


所得税や贈与税の対象となるケース

死亡保険金は相続税だけでなく、所得税や贈与税の課税対象になることもあります。どの税が課税されるかを決めるのは「契約者(保険料の負担者)」「被保険者」「受取人」の組み合わせです。

①相続税が課税されるケース:契約者と被保険者が同一(受取人だけ別)
②所得税が課税されるケース:契約者と受取人が同一(被保険者だけ別)
③贈与税が課税されるケース:契約者と被保険者と受取人がすべて別

上記のうち、遺産相続の場面でもっとも一般的なのは①です(被相続人が契約者・被保険者となり、相続人が受取人となるケース)。これに対し②は、相続人が自分を受取人にして被相続人に保険をかけるケースです。③は少しわかりにくいですが、たとえば父親が自分の妻に保険をかけ、受取人を自分たちの子供に指定するようなケースが考えられます。

 

死亡保険金と特別受益の関係

さきほど「死亡保険金は遺産分割の対象ではない(民法上の相続財産ではない)」と説明しましたが、事情によっては他の相続人との平等を図るために相続割合が調整されることもあります。これが民法第903条に規定される「特別受益」という制度です。

民法第903条第1項〜第3項

共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。


死亡保険金の金額が他の相続財産と比較して特に高額と思われる場合、他の相続人が遺産分割の内容に不満を持つ可能性があります。こうした不満や不公平感を解消するための制度が特別受益です。

もっとも「他の相続財産と比較して特に高額」についての明確な基準はありません。どの程度の金額から特別受益とみなすのかは、個別のケースごとに判断されます。特別受益かどうかは相続人同士で話し合って決めますが、話し合いがまとまらなければ裁判所に認定してもらうこともできます。

 

死亡保険金の遺産相続上のメリット

死亡保険金を上手に活用すれば、遺産相続手続でさまざまなメリットを受けることができます。

 

節税効果

まず挙げられるのが「節税効果」です。すでに説明した通り死亡保険金は相続税法上は「みなし相続財産」とされるため、相続財産の一部を死亡保険金に変えても相続税の課税は回避できません。

しかし「課税対象となる金額」は大きく変ります。相続税には『3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数』の基礎控除額が適用されますが、死亡保険金を併用すればこれに『500万円 × 法定相続人の数』の非課税限度額を上乗せ可能です。

 

納税資金の捻出

相続財産がほとんど不動産ばかりのケース、あるいは特定の相続人が不動産だけを相続したケースでは「相続税の支払い」が問題になることがあります。相続人の自己資金から納税資金を捻出できないために、せっかく相続した不動産の売却を迫られることも少なくありません。

このようなとき、もし不動産を相続する相続人を受取人とした死亡保険金があれば、そこから納税資金を捻出することが可能です。

 

代償金の捻出

相続財産の内容が不動産に偏る場合、遺産分割が法定相続分の通りに行えないことがあります。たとえば2,000万円相当の相続財産のうち「現金が500万円、不動産が1,500万円(の評価額)」だった場合を考えてみましょう。

相続人が2人で、どちらも被相続人の子なら法定相続分は【1:1】です。ここで長男が不動産、次男が現金を相続すると相続割合は【3:2】になりますが、不動産を相続した長男が差額の「500万円」を現金で次男に渡せば相続割合のバランスを取れます。これが「代償金」という制度です。

しかし長男に代償金を支払う自己資金がなければ、納税資金の場合と同じように不動産を売却しなければならないケースも出てきます。しかしもし長男が死亡保険金の受取人なら、受け取った保険金を代償金に充てることができるでしょう。

 

まとめ

死亡保険金の特徴を理解して上手に活用すれば、遺産相続の手続きを有利に進めることができます。とはいえ保険契約の内容や保険金の額によってはかえってトラブルの種になる可能性もあるため十分な注意が必要です。不明な点があれば専門家を上手に活用して、スムーズな遺産相続手続を目指してください。

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