遺産相続が発生すると、相続した財産は基本的に相続人の名義に変更されます。一方、生前対策として被相続人がまだ元気なうちに、財産の名義が変更されるケースも少なくありません。この記事では生前の名義変更がどのような意味を持つのか、特に税金面を中心に説明していきます。
遺産相続の名義変更について
遺産相続に名義変更は付き物です。不動産はもちろん、各種動産の中にも名義変更が必要なものが少なくありません。こうした名義変更には手間がかかりますし、相続人が複数いる場合は遺産分割協議の成立後に名義変更する必要があります。遺産相続ではさまざまな手続きをしなければならないため、名義変更は相続人にとって大きな負担になるといえるでしょう。
関連記事:『遺産相続手続に期限はある?期限を過ぎた場合の対策についても解説』
これに対し、被相続人がまだ存命のうちに名義変更が行われることもあります。生前に名義変更を行えば上記のような負担を減らすことができますが、一方で名義変更に伴って発生する「税金」には注意が必要です。
死ぬ前に名義変更した財産の税金
遺産相続にともなう税金というと「相続税」を連想しますが、生前に名義変更(財産の贈与)が行われる場合は原則として、相続税ではなく「贈与税」の課税対象となります。
贈与税
贈与税とは「個人から財産をもらったときにかかる税金」です(これに対し、法人から財産をもらう場合は所得税)。被相続人が亡くなる前に現金を譲り受けたり、動産や不動産を相続人の名義に変更した場合はこの税金の対象となります。
贈与税の税率は以下の通りです(国税庁WEBサイト『No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁』より)。
①一般税率(一般贈与財産用)
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 300万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 3,000万円超 |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 |
400万円 |
②特例税率(直系尊属から20歳以上の者への贈与に適用)
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 4,500万円以下 | 4,500万円超 |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 |
640万円 |
なお贈与税には「年間110万円」の基礎控除額があります。1月1日から12月31日までの1年間に贈与された金額が110万円以下であれば贈与税はかかりません。
相続税
ところが生前贈与であるにもかかわらず、相続税が課税されるケースがあります。それが「相続開始前3年以内に取得した財産」です。被相続人が亡くなった日からその3年前の日までのあいだに行われた生前贈与は、相続財産に加算されて相続税の課税対象となります。
つまり節税のつもりで年間110万円以内の生前贈与を繰り返していても、最後の3年間に贈与された金額(最大330万円)は結果として控除されません(基礎控除額以上の贈与を受けて贈与税を納めている場合は、その税額分を相続税から控除できます)。
非課税
名義変更を含む生前贈与を受けた場合でも、贈与税・相続税のどちらも課税されないものがあります。たとえば「家族や一族の墓」や「仏壇」、「祭具」などです。また相続財産を国に寄付する場合も、寄付した財産については非課税とされます。
関連記事:『遺産相続と祭祀継承の関係とは?遺産分割で墓守料を上乗せすることは可能?』
死ぬ前に名義変更できる財産・できない財産
相続対象となる財産の中には、被相続者の生前に名義変更できるものと、できないものがあります。
不動産
不動産は被相続人の生前・死亡後に関係なく名義変更可能です。ただしすでに説明した通り、生前に名義変更をすると不動産評価額が贈与税の対象となります。一般に不動産は(基礎控除額の)110万円より高額になることが多いため、生前の名義変更には節税効果は期待できません。
ただし「特定の不動産を特定の相続人に確実に相続させたい」場合などは、あらかじめ生前贈与しておいたほうが有利です。
預金口座
銀行などの預金口座は、基本的に生前の名義変更ができません(例外として、結婚・離婚・氏名の変更など「本人の名義が変わる」場合のみ認められます)。
ただし被相続人から相続人の口座に現金を移動させたり、被相続人が相続人名義で預金口座を開設・管理する行為(名義預金)などは、生前の名義変更に近い効果があるといえるでしょう。
なお口座から口座への現金の移動は原則として贈与税の対象に、相続人名義で管理していた口座は相続税の対象になります。
有価証券
株券などの有価証券は生前の名義変更が可能です。ちなみに被相続人の死後に名義変更を行う場合は遺産分割協議の成立を待つ必要があるため、有価証券を売却するまでに時間がかかります。ベストなタイミングで株式売却をしたいのであれば、相続発生前に名義変更しておいた方がよいでしょう。
生命保険
生命保険は生前のみ名義変更可能です。被保険者の死亡によって支払われる死亡保険金は「契約者(名義人/保険料支払者)」「被保険者」「受取人」の組み合わせによって税金が変わるため、節税のために生命保険を利用するなら生前に名義を確認しておく必要があります。
- 相続税の対象となるケース:契約者(名義人)と被保険者が同一の場合
- 贈与税の対象となるケース:契約者(名義人)と被保険者と受取人がすべて異なる場合
- 所得税の対象となるケース:契約者(名義人)と受取人が同一の場合
関連記事:『死亡保険金は遺産相続でどう扱われる?相続税がかかる場合の計算方法も解説』
自動車
自動車は生前・死亡後に関係なく名義変更できます。ただし被相続人の死亡後(相続発生後)は遺産分割協議がまとまるまで名義変更ができません。自動車の売却や廃車手続は名義人しか行うことができないため、速やかに売却や廃車をしたいのであれば生前に名義変更しておくほうがよいでしょう。
各種ライフライン
電気・ガス・水道といったライフラインや、電話回線・インターネット回線などの契約も生前・死亡後に関係なく名義変更できます。ただし名義変更しないまま契約者が死亡すると(口座凍結によって)料金の引き落としができなくなり、ライフラインが止まる危険があるため、できるだけ生前の名義変更がおすすめです。
死ぬ前の名義変更のメリット・デメリット
生前の名義変更(生前贈与)には、いくつかのメリットとデメリットがあります。
まずメリットとして挙げられるのは以下の点です。
- 特定の財産を特定の相続人に引き継げる
- 相続税の節税効果がある
- 財産の売却や処分のタイミングが自由になる
一方、デメリットとしては以下のものが挙げられます。
- 贈与税の対象となる(相続税よりも基礎控除額が少ない/税率が高い)
- 贈与税の基礎控除額(年間110万円)以内でも贈与のタイミングによって相続税の対象になる
- 特別受益とみなされて相続分が減ることがある
ちなみに特別受益とは、「他の相続財産と比較して特に高額」な財産(たとえば死亡保険金など)を受け取った相続人と他の相続人との間で相続割合を調整する制度です。詳しくは『死亡保険金は遺産相続でどう扱われる?相続税がかかる場合の計算方法も解説』をご覧ください。
まとめ
財産の名義を変更するタイミングは、課税される税金の種類や財産の取り扱いなどに大きく影響します。スムーズな遺産相続のためにも、被相続人が亡くなる前に一部の財産を名義変更しておくか、それとも相続発生後に名義変更するのかをしっかり検討してみてください。
ご相談やご依頼がございましたらお気軽にお問い合わせ下さい。