相続は「争族」と呼ばれるほど、トラブルが付き物です。今回は相続にまつわるトラブルとして、他の相続人に嘘をつかれるケースとその対処法を紹介します。
相続でよくある嘘
相続の難しいところは、当事者の一方、つまり「被相続人」が亡くなってから始まるという点です。あらかじめ遺言書が作成されていればよいのですが、遺言書がない場合、相続財産の分け方について相続人同士が話し合わなくてはなりません。このとき、一部の相続人が自分にとって相続を有利に進めるための「嘘」をつくことがあります。
関連記事『相続が家族・親族間でもめるケースとは?対処方法についても解説』
口約束による相続を主張される
よくあるのが、遺産相続について「被相続人が生前に約束してくれた」と主張するケースです。たしかに「契約行為」は口頭でも成立しますが、片方の当事者(被相続人)が亡くなっている以上、その真偽を確かめる方法はありません。
関連記事『口約束による遺産相続は可能?トラブルにならない遺産相続方法について解説』
遺産を隠される
被相続人と同居していた家族や相続人が、相続発生後に遺産の一部を隠したり、遺産の内容を過少申告することもあります。たとえば本人と家族しか存在をしらない預金口座の場合、預金通帳とキャッシュカードを隠されてしまうと、他の相続人はその存在に気付くことは困難です。
遺産を使い込まれる
被相続人と同居していた家族や相続人が、遺産に含まれる現金や預金口座の中身を私的な目的(たとえば生活費など)に使用することもあります。使い込んだ本人が「そんなことはしていない」「正当な目的(たとえば葬儀代)で使った」と主張する場合、嘘の証明が難しいこともあります。
関連記事『親の通帳からの使い込みは罪になる?相続トラブル時の対処方法についても解説』
遺産分割協議を勝手に進められる
遺産分割協議の成立にはすべての相続人の参加と合意が必要です。しかし相続人の中には遺産分割協議を開催すると言っておきながら、勝手に分割内容を決めて遺産分割協議書を偽造してしまう人がいるかもしれません。
遺言書を偽造・変造される
本当は存在しない遺言書を捏造したり、自宅に保管されている自筆証書遺言の内容を書き換える、あるいは破棄するといった方法で「嘘」をつくケースも考えられます。なおこれらの行為は「私文書偽造罪」や「私用文書毀棄罪」と呼ばれ、立派な犯罪行為です。
相続の嘘に対処する
相続手続に関する嘘は比較的簡単に見破れるものもあれば、見破るのが困難なものもあるでしょう。いずれにしても、もし関係者の誰かが「嘘をついている」と感じるなら、以下のような方法で対処していきます。
遺言書を確認する
遺言書が残されているなら、まずはその内容を確認が最優先です。ただし「偽造」や「変造」が疑われる場合は、弁護士などと相談して慎重に対応する必要があります。
なお「公正証書遺言」であれば、偽造・変造・破棄のリスクはありません。相続発生後のトラブルを未然に防ぐためにも、被相続人になる方には公正証書遺言の作成をお勧めします。
関連記事『公正証書遺言は相続人に通知される?遺言者が死亡したらやるべきことについて解説』
相続人全員で話し合う
遺言書がないなら、相続人全員できちんと話し合うことが大切です。真摯に話し合えば相手も嘘をつこうとは思わないかもしれませんし、すでに嘘をつかれている場合も嘘を見破るきっかけになるかもしれません。
関連記事『遺産相続の話し合いはいつするべき?最適な時期と手続きの手順について解説』
関連記事『行政書士に遺産分割協議書作成を依頼するといくらかかる?費用相場について解説』
財産調査を徹底する
相続発生後すぐに財産調査を行い、事実を明らかにしておけば、少なくとも遺産の使い込みや隠蔽をある程度防げます。第三者である専門家に相続調査を依頼することも有効な手段です。
関連記事『相続発生後の財産調査はどうすればいい?財産ごとの調査手順について解説』
相続回復請求権を行使する
本来の相続人以外の人に相続財産を奪われてしまったなら、相続回復請求権を行使して相続財産の返還を請求できます。
関連記事『相続回復請求権とはどんな権利?時効や請求の方法についても解説』
専門家に相談する
当事者同士の話し合いでは「言った、言わない」という水掛け論になりがちです。また相手が黙秘を決め込んで、話し合いが進まないこともあるでしょう。このような場合は専門家に相談することで嘘を見破れる可能性があります。
相続の専門家にはさまざまな種類がありますが、相続人同士の対立が裁判にまで発展しそうな場合は弁護士に依頼するのがベストです。
関連記事『遺産相続は誰に頼むのがベター?各専門家の業務範囲や費用・注意点についても解説』
関連記事『相続手続で頼れる専門家とは?行政書士と弁護士の違いについて解説』
裁判所に訴える
当事者同士の話し合いに埒が明かない場合や決裂した場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てます。遺産分割調停は基本的には「話し合い」の一種ですが、相続トラブルについて豊富な知識と経験を持つ調停委員が間に入ってくれるため、一方の嘘を暴くきっかけになるでしょう。
調停(話し合い)でも決着がつかない場合は、裁判官が遺産分割について判断する審判手続に進みます。
なお遺言書の偽造・変造・破棄が明らかになった場合、その人は「相続欠格者」となり、相続権を失います。
関連記事『遺産分割調停の内容と活用方法とは?審判・訴訟との違いについても解説』
相続放棄をする
他の相続人の嘘に振り回されたくない場合、相続放棄をして一切の相続手続から離脱するというのもひとつの方法です。ただし相続放棄は撤回できないため、しっかり考えたうえで慎重に決断してください。
関連記事『相続放棄すべきケースとは?相続放棄の申述方法についても解説』
まとめ
相続をめぐる「嘘」は、仮にその場でバレなくても、いずれは発覚することがほとんどです。結果として家族や親族との関係が崩壊したり、場合によっては刑事罰に問われる可能性もあるため、すべての相続人が正直な行動を心がけるようにしましょう。