嫁に行った娘は遺産相続できる?争族トラブルにならない方法についても解説

遺産相続でよく聞くトラブルのひとつが「嫁に行った娘には相続させない」というものです。しかし法律上そのようなことは可能なのでしょうか。そもそも、なぜそのような問題が発生するのでしょうか?今回は嫁に行った(もしくは婿に行った)人の相続をめぐる問題について解説していきます。

 

嫁に行った娘にも遺産相続の権利がある

「嫁に行く/婿に行く」という表現は、結婚の際に親の戸籍から抜けて、配偶者が筆頭者の戸籍に入るという意味です。ここでは元の苗字が変わらない方が筆頭者となるため、もし妻が夫の姓を名乗るなら(妻が)嫁に行く、夫が妻の姓を名乗るなら(夫が)婿に行く、という形になります。

このように嫁や婿に行く場合は戸籍の移動を伴いますが、戸籍の移動は遺産相続の権利や順番になんの影響も与えません。つまり嫁に行った(婿に行った)としても、その人には遺産相続の権利があるのです。

 

相続人と相続の順番

もう少し詳しく説明する前に、まずは法律(民法)上の相続人について説明したいと思います。日本では相続の権利を持つ人を「法定相続人」と呼び、被相続人とのつながりの深さに応じて相続の優先順位を設定しています。

民法第887条第1項

被相続人の子は、相続人となる。


最優先される相続人は「子」です。民法887条第1項は非常にシンプルな条文で、余計な条件や但し書きはありません。つまり嫁に行っていようが婿に行っていようが、「子」である以上は相続人ということになります。もちろん相続順位は第一位です。

ちなみに子が複数いる場合は均等割合で遺産を相続します。長男だから、末っ子だから、嫁に行っているからという理由で相続の割合が変わることはありません。

民法第889条第1項

次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
①被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
②被相続人の兄弟姉妹


優先順位の第二位は「直系尊属」、つまり両親や祖父母、曽祖父母などです。もし被相続人に子がいない場合、これらの人が相続人になります。

なお条文の①に「親等の異なる者の間では、その近い者」とあるため、もし両親と祖父母がどちらも存命なら、より関係の近い両親が相続人となります(祖父母は相続できません)。この場合の父・母の相続割合はそれぞれ均等です。

「兄弟姉妹」は優先順位の第三位です。被相続者に子がいない(孫もいない)場合、さらに直系尊属が存命でない場合は兄弟姉妹が相続人となります。

民法第890条

被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第887条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。


常に相続人になる、つまり優先順位が存在しないのが「配偶者」です。配偶者は他の相続人の有無にかかわらず相続人となります。

具体的には、

  • 子がいる場合は「配偶者と子」
  • 子がいなければ「配偶者と直系尊属」
  • 子も直系尊属もいなければ「配偶者と兄弟姉妹」
  • 子も直系尊属も兄弟姉妹もいなければ「配偶者のみ」

が被相続人の遺産を相続します。

 

相続人ごとの法定相続分

法定相続人それぞれの相続割合は以下の通りです。

【配偶者の法定相続分】

他の相続人の存在 法定相続分
なし すべて
子が存在する 1/2
直系尊属が存在する 2/3
兄弟姉妹が存在する

3/4


【子・直系尊属・兄弟姉妹の法定相続分】

相続人 配偶者がいる場合の法定相続分 配偶者がいない場合の法定相続分
1/2(複数の場合は均等に配分) すべて
直系尊属 1/3(複数の場合は均等に配分) すべて
兄弟姉妹 1/4(複数の場合は均等に配分)  すべて


嫁に行った娘は、被相続人に配偶者がいる(存命している)場合は相続財産の1/2、いない場合は相続財産のすべてを、自分の兄弟姉妹と均等割合で相続します。

 

戸籍と相続人の権利は別物

すでに説明した通り結婚をすると戸籍の移動が発生します。娘が嫁にいく場合は親の戸籍から抜けることになりますが、そもそも戸籍制度と相続制度は連動しません。戸籍を移動しても「子」である事実は変わらないため、引き続き子として相続人になることができます。

なお戸籍を抜けても、相続手続で被相続人の「出生から死亡までのすべての戸籍(除籍謄本を含む)を調べれば親子関係は証明できます。また娘の戸籍からも、被相続人が親であることが確認可能です。

 

旧民法の「家制度」について

そもそも「嫁に行った娘」の相続が問題とされる背景には、明治時代に成立した旧民法の「家制度」があります。当時は家ごとに戸籍が作られ、相続が発生すると通常は一家の長男が「家長」として、すべての遺産を相続しました。

家制度では長男以外に相続権がないため、「嫁」であるかどうかは相続に関係ありません。それでも「家単位」で相続や戸籍を考える習慣が現代にも影響して、「家を出た娘には実家の相続権はない」という態度に繋がっていると考えられます。

なお戦後の憲法下で作られた新しい民法では家制度は廃止されました。同時に相続も戸籍も、すでに説明した通りの制度に変更されています。ですから「嫁に行った娘」が相続で問題になること自体、時代錯誤的な考え方といえるでしょう。

 

嫁に行った娘に相続財産を残す方法

それでも現実には、特に田舎に行くほど「嫁に行った娘に相続させない・相続できない」という話を聞くことがあります。では身内にそうした考え方をする人がいても、嫁に行った娘に確実に相続させるにはどうすればよいでしょうか?

 

遺言書で指定する

一つの方法は「遺言書」であらかじめ相続配分を指定しておくことです。遺言書は相続人同士の話し合いに優先します。このため遺言書に「○○(嫁に行った娘の名前)に△△(財産の指定)を相続させる」と書けば、その内容で相続が行われます。

もちろんすべての財産を娘に相続させるという遺言書も有効ですが、被相続人の配偶者や他の子供がいる場合、それらの人たちの相続分(遺留分)を侵害してしまいます。他の相続人から嫁に行った娘に対して遺留分侵害額請求を起こされる可能性もあるため、注意が必要です。

 

生前贈与をする

別の方法は「生前贈与」です。正確には相続ではありませんが、被相続人が元気なうちに一定の財産を与えてしまうことで、結果として娘に財産を残すことができます。

なお生前贈与には所得税がかかりますが、年間110万円まで非課税になるため、毎年少しずつ継続して贈与するのが良いでしょう。

 

相続人同士で話し合う

相続が発生した後は、遺言書がなければ相続人同士で話し合って相続分を決めることになります。この話し合いを遺産分割協議といい、原則としてすべての相続人が参加しなければなりません。もちろん嫁に行った娘も参加する(参加させる)義務があるため、その場で正当な相続分を主張することになります。

 

嫁に行った娘を相続人から排除するデメリット

問題は、遺産分割協議から嫁に行った娘を排除したり、気づかれないように遺産隠しをする相続人の存在です。そのような行動は、後からさまざまなトラブルの原因になります。

 

遺産分割協議が成立しない

嫁に行った娘も相続人のひとりですから、遺産分割協議に参加させなければなりません。もし当人がいないまま遺産分割協議を行っても、法律上は無効となります。

遺産分割協議書がなければ相続登記(不動産の名義変更)も銀行口座の凍結解除もできないため、遺産相続手続全体が進まなくなります。

 

遺留分を主張される可能性がある

仮に「財産隠し」によって嫁に行った娘の相続分を減らしても、それが発覚すれば遺留分侵害額請求を起こされる可能性があります。

なお遺産隠しをした場合でも、弁護士が徹底的な財産調査をおこなうことで「発覚」するケースが少なくありません。弁護士は官公庁や企業に対して「弁護士会照会(弁護士法第23条)」という権利を行使でき、照会を受けた側は回答を拒否できません。

財産隠しは必ず発覚すると考えておいた方がよいでしょう。

 

まとめ

嫁に行った娘にも、他の相続人と同じく相続権があります。相続の順位は第一位で、他の兄弟姉妹と同じ割合で相続することができます。もし他の相続人から圧力を受けたり、財産隠しが疑われるような場合は、ぜひ弁護士に相談してみてください。なお現時点でトラブルが発生していないのであれば、行政書士や司法書士などの専門家に相談することもできます。それぞれの環境に合わせて、最適な専門家を利用しましょう。

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